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話題の『みかづき』 [本のはなし]

今年最後のおすすめブックは森絵都さんの『みかづき』。

発売当初から話題で、年末にきていろいろTVにも取り上げられているので、今更なんですが。

書評を見て通販で購入し、届いた本の分厚さに、まずびっくり。
昔の大きなアルミのお弁当箱くらいある。(この比喩がわかる人はかなり年配だわね)

さらに、読みだすといきなり、主人公(の一人)大島吾郎が運命の出会いをするのが、昭和36年、千葉県習志野市立野瀬小学校、と具体的な年と地名が出てくるので、おやっと思い、これまでのファンタジックな森絵都さんの世界ではないぞと、思わず居ずまいを正した。

子どもが主人公ではない。
とはいえ、最初に登場する舞台が小学校なので、当然子どもはたくさん登場する。
吾郎はこの小学校の用務員なのだが、「勉強がわからない」という子供たちの勉強を用務員室で見てあげているうちに、教え方のうまさから子供たちがたくさん集まるようになったのだ。
その中に、勉強ができるらしいのに、なぜかやってくる女の子、蕗子がいた。

蕗子の母、大島千明はシングルマザーで蕗子を育てながら、家庭教師をやっている。
千明は吾郎の教育の才に目を付け、一緒に塾をやらないかと誘う。

千明は、戦争中、尋常小学校が国民学校に名前を変えた年に入学し、小国民として教育させられた挙句、卒業した年には敗戦で再び小学校に名前を変えたというみずからの体験から、文部省と公教育を目の敵にしているのだ。そして、理想の教育を追い求めているらしい。
公教育が太陽なら、私塾などは月だというわけだ。

最初から、いきなり教育の話?と戸惑う。
その一方で、吾郎が子供の勉強を見てやる気のいいだけの男かと思ったら、
その子供たちの母親と関係をもち、首になるという
性格破たん者のような面をもつことがわかってくる。


ちょっと絵都さんの作品に、こんなドロドロした男と女の話?
と、これも戸惑う。

とにかく、吾郎と蕗子の母、千明は結ばれて、塾を経営することになる。
ときはベビーブームの子どもたちが大勢生まれ、
東京への通勤圏となった習志野周辺もどんどん開発が進み、住民が爆発的に増えてきたころだ。
教え方のうまい吾郎のおかげで塾は大繁盛。
おのずと塾同士の競争もし烈になるのだが、公教育にはない真の教育を追求しようという千明の経営する塾では、塾講師の採用にも教育にも心を砕いているので、評判が評判を呼んで、有名塾となり、次々、近辺に教室を拡大していく。

その一方で、吾郎との間に二人の女の子が生まれる。
蕗子と二人の娘たちも、それぞれ親の影響を受けて、育っていくのだが…。

というわけで、あっという間に年が過ぎ、話が展開していくのだが、
そこに当時の世相が具体的に描かれ、単に男と女の物語ではおさまらない、
社会小説のような展開となる。

絵都さんのインタビューをテレビで見たが、絵都さんはこの小説を書くにあたって、膨大な資料を集め、独自の年表を作ったのだそうだ。実際その年表を見せてくれていた。
たしかに、その甲斐はあって、具体的な商業施設や娯楽施設の名前などもでてくるので、ああ、あの頃はあんなことがあったなあ、と思いをはせつつ読むという楽しみもある。
だが、年表をたどりながら書いたな、という感じがにじみ出ていて、
ちょっとと思ったのも事実。

だが、一家の塾の経営をめぐる波乱万丈の物語を通して、戦前から現代にいたる日本社会の、しかも教育制度に光をあてて、物語を書こうとした発想も意欲もすごいと思う。知らないことも多々あった。
それをだいたい目撃したり体験したりしてきて、とくに大学闘争を経験した私としては、よくぞ書いてくれましたという感じである。

そこに娘たち三人三様の個性あふれる生き方も面白い。
かつてカフェーで女給をしていたという千明の母、頼子というキャラクターもユニークだし。
女たちの歴史として読むこともできる。
ただ、重いのがね。

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