So-net無料ブログ作成

ヒトリコ [本のはなし]

このところ、少しずつ更新が遅れがちなのは、それだけ時間に余裕がないということで。
(言い訳)

今日の紹介は額賀澪さんの『ヒトリコ』(小学館)。
去年、小学館文庫小説賞を受賞した作品です。
前の竹宮惠子さんの『少年の名はジルベール』みたいに、表紙がセーラー服を着た少女がピアノを弾いているイラスト。赤い金魚が一匹泳いでいる。
やっぱり漫画か、と思ったら、小説だった。
でも、これではいかにも少女小説ですって感じですよね。
もちろん、最近は少女小説出身の優れた女性作家がたくさんいるので、馬鹿にするつもりはないのですが。

主人公は、深作日都子(ふかさくひとこ)。
といっても、この本の物語は、彼女の視点で書かれた部分と、
同級生の大津嘉穂、堀越明仁、途中で転校していった海老澤冬希の
それぞれの視点で書かれた部分が入れ替わりながら、語られていく。
だれに感情移入するかで、感想が違ってくるだろう。

はじまりは、小学校5年生の9月。それから中学を経て、高校の1年までの物語。
舞台は作者の出身地、茨城。古くからの住民は氏名ではなく屋号で呼ばれる田舎だ。
それまで4人は、16人クラスの同級生だった。なかでも、深作日都子と大津嘉穂は親友同士。
ところが、クラスで飼育していた金魚が死ぬという「事件」をきっかけに、二人は反目し合うことに。

この「事件」の真相は、この物語の伏線となって最後までつながっていく。

この金魚は、もともと海老澤冬希が買ってきたもので、彼と日都子と一緒にクラスの生物係として世話を担当していた。ところが、冬希くんが転校することに。
それで日都子が世話をすることになったのだが、それが死んでしまったのだ。

日都子は理不尽にも担任の教師から一方的に責められ、殴られる。
そればかりか、嘉穂やほかのクラスの子全員から白い目で見られることになる。
それで、日都子はいつもひとりでいる「ヒトリコ」となったのだった。

ここまでだったら、やっぱりなんとなく少女小説ねっという感じである。
ヒステリーの教師の体罰やクラスのいじめなどは、私の体験にはなくて、読んでいても気持ちが悪くなるが。

ここに異色の人物が登場する。
キュー婆ちゃんと呼ばれる、ピアノを教えている一人の老女(この表現は、自分自身が「老女」と呼ばれる年になってみると抵抗を感じないでもない)。
日都子が学校帰りに同級生たちに「金魚殺しー」とはやし立てられ、手を縛られているところに車で通りかかり、助けてくれたのだ。そして「ほどほどに頑張りなさい」と言って去る。

その後、日都子は「嫌われ者同士、これから仲良くやろうじゃないの」というキュー婆ちゃんにピアノを習うことになる。

この、キュー婆ちゃん。口は悪いが、人を見る目はある。
日都子の弾くピアノの音を聞いて、感情がないとすぐに気づく。

でも、日都子は動じない。
日都子は、あの日から変わったのだ。
まわりからいじめられても、孤立しても、「ほどほどに頑張る」。
そして、「かかわらなくてもいい人とは、かかわらない」のだ。
だが、いじめられて仲間外れになっても超然としているヒトリコは、ますます周りの反感を買う。
いじめる子の強さと弱さ、いじめられる子の弱さと強さ。

いじめられる子もいじめる子も、それぞれに複雑な背景を抱えているのだ。
最近の少女小説は、そのあたりの事情の描き方がいかにも現代的だ。
離婚や精神障害などが、身近なこととして描かれる。

この作品を特徴づけているのは、音楽。
章ごとに「ヒトリコと『アメイジング・グレイス』」「ヒトリコと『心の瞳』」「ヒトリコと『遺作』」「ヒトリコと怪獣のバラード』」という具合に、曲のタイトルがその章のタイトルとなっているのだ。
『遺作』は、ヒトリコの弾くショパンのノクターン第20番嬰ハ短調。
心の瞳』と『怪獣のバラード』は、ヒトリコたちの学校の文化祭や合唱コンクールで取り組んだ曲。この2曲、私は聞いたことがなかったのだけれど、最近はYouTubeという便利なもののおかげで、初めて聞くことができた。(下線をクリックすれば、見られます)

合唱コンクールでも、文化祭での合唱でも、そこでの人間関係が一番難しいのは、衆目の一致するところ。そこでも、ヒトリコは、かかわりを拒否するわけでもなく、でも、混じろうとしない。
その彼女の「かかわる必要のない人とは、かかわらない」というスタンスを「うらやましい」という冬希。それに動揺するヒトリコ。

彼女は変われるのか。変わる必要はあるのか。

最後まで読んでみると、けっこうう~んと考えさせられる物語だった。




















nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

メッセージを送る