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あなたはひとりぼっちじゃない [本のはなし]

このところ、1日中パソコンに向かってひたすら原稿をかいている。
ときどき買い物がてら外出して周辺を歩くだけの毎日。
だんだん曜日の感覚がなくなって、昨日は途中から金曜日の気がしていた。
今朝起きて、今日が金曜日だと気づいて愕然。
木曜日を損してしまった。銀行に行こうと思っていたのに。
カレンダーを日めくりにしなくちゃ。
でも、それも忘れそう。

家にこもると何が困るって、ミステリを読めなくなること。
もっぱら電車やバスに乗っているときに読んでいたから。
で、ブログでミステリを紹介する機会もぐっと減ってしまった。
本は溜まっているのだけれど。

今日のおすすめは、アダム・ヘイズリット著『あなたはひとりぼっちじゃない』(新潮クレストブックス)。
ミステリではなく、全米図書館賞やピュリッツァ賞最終候補となったという短編小説集。
ちなみに、べつに今の自分の状況からこのタイトルに惹かれたわけではない。
帯に「心に病があるとき、性的にいたんである時、愛する人を失うとき・・・・・・。若き才能が柔らかな声で語る、9つの孤独」とあるのに惹かれたのだ。

最初の短編の書き出しから、こうだ。

「はっきりさせておきたいことがふたつある。私は医者に敵意を抱いているし、患者支援グループに参加したことは一度もない。73歳になって変節するつもりはないのである。精神病院なんてものは雨のそぼ降る不問の丘の頂上でマスでもかいていればいいのだ」

こうのたまうのは、精神病でぶっとんだ父親。
1週間前に、29歳になる息子のグレアムに会いに行こうと思い立って家を後にした。
東海岸から西海岸まで大陸横断の旅だ。
途中で娘のところに寄ったが、引っ越した後だった。
グレアムに電話したら、姉は父さんには会いたがっていないという。
弟のところに行っても、昼食を共にする以上のことはする気がないようだ。

伝記作家のために書き記した自分についてのメモは、偏執病者の歴史そのもの。
1952年には電気ショック療法を受け、これに関しては両親を絶対に、絶対に、絶対に許さないと書いてある。
でも、自分の行動を「精神の暴走」と書いたり、「奇行」と書いたり(奇行を病気と言いくるめられたことで精神医学界を怒っている)、自覚がないわけではない。

ところが、ようやくグレアムの家に着いたら、知らない青年がドアを開けた。
息子は「ホモ」だったのだ。でも、そんなことを気にする自分ではない。
理解あるところをみせてやる。

世紀の一大発明について語る父親に、辟易しながらもどうすることもできず、無力感にうちのめされるグレアムの姿が父親のハイスピードな語りの中から見えてくる。

読んでいる方もハラハラドキドキ。父親にいら立ったり、腹が立ったり…。

息子を理解したいという父に、グレアムはいう。

「いつか彼がぼくを置いていなくなるんじゃないかといつも不安でいっぱいなんだ。どうしてそんなことを考えるのか知りたいかい?それはゲイであることとはぜんぜん関係がない。母さんが父さんを捨てたことを知っているからなんだ。」

そして、息子は自分も薬をのんでいることを告げる。
そんな息子の悲しみに気づきながらも、父親は自分の発明について語り続ける。

泣きつかれて寝てしまった息子の額にキスをして、毛布を掛けてやる父。
そして息子の髪をなでつけてからスタンドの明かりを消す。
もう行かなければならない。

これほどまでにリアルな病気の父と孤独な息子のドラマを描けるのは、作者自身ゲイであり、父親が精神を病んでいたという背景をもつがゆえかもしれない。
おそらく父親に振り回され、ひどい体験をしていながら、父親を愛し、父親の愛も感じていたのだろう。そう思いたかったのかもしれないが。

だが、彼は、そういう精神状態にいる人や家族の気持ちをよく理解できるし、自分自身がゲイでもあるので、小説にはよくそういう人が登場するが、とくに精神病をもつ人やゲイをテーマに書いているわけではないと言っているという。

たしかに、これは人間という存在そのものの不条理を描いていると言ってもいいだろう。

2篇目は、奨学金の返済を迫られて医療サービスの遅れた遠隔地で勤務を始めた医師の話。
訪問した若い母親の片手は指が4本欠けていた。
抗不安薬の処方を希望する女性に、きちんと診療所に通って治療をうけなければ出せないと語る主人公。女性は診療所に通うことを拒否し、薬だけをほしがり、ダメならと話を打ち切ろうとする。
そのやりとりをするうちに、主人公は話を打ち切りたくないと切に思っている自分に気づく。

彼は、イギリス人だった父親の関係で、十代のはじめにイギリスで教育を受けたそうで、本書でも4篇はイギリスが舞台である。
14歳の時に父を亡くしてアメリカに戻った。33歳になる今は、法律事務所に勤めながら長編小説を書いているそうだ。
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